えー、世界らん展の続きです。大家のガルマルさんから券をもらったんです。東京ドームというところでやっている催しでね。水道橋というところで電車を降りるんですよ。熊も、八もね、都会に来たことがないからおろおろしています。
さあ、大家さんからもらった券でね、入りますよ。
熊「ああ、それにしても、ずいぶん並んでますね」
隠「あぁ、東京ってとこは、どこでも行列ができるんだ」
隠「おっと、荷物検査があるよ。みんな、変な物持ってないだろうね。変なもの持ってると係の人に叱られるからね」
そういいながら、みんなを見ると、誰も荷物を持ってない。手ぶらできているんですな。あたしだけですよ、カメラを持ってきたのは。ばしばし、撮りますよ。
隠「さあ、みんな、チケットは持ったかい?」
といって、あたしは、みんなにチケットを配りました。大家さんからもらったのは、一枚だから、これを四つにちぎってね、渡したわけです。
最初に、八が係に人に四分の一のチケットを渡します。
係の人「あのぉ、お客様、このチケットは四分の一しかないんですが」
八「てやんでぇ、これはな、大家からもらったありがたいチケットだ。四分の一あれば、十分なんだ」
なんて、八は訳のわからないことをいってます。
隠「あぁ、そこの係の人」
係「はい、なんでしょう」
隠「これはね、ガルマルさんという私たちの大家さんからもらったチケットだからね。四分の一でもいいんです」
係「あぁ、ガルマルさんの紹介ですか。どうぞ、お入りください」
って、四人とも、入れちゃった。何でか、わからないんですがね。
神「あんた、すごい人だよ。見てごらんよ」
隠「すごいね、ランよりも、人のほうが多いね」
なんていいながら、ランを見て回ります。
隠「とにかく、ランだらけだね」
神「そりゃあね、ラン展ていうくらいだから」
神「おや、あそこにランが山になって売ってるよ。あんた、買わないのかぃ」
隠「買わないよ。ランてのは、世話が大変なんだ。それに、花が咲くのは何年も先なんだぞ。待ってられないよ」
神「ラン展に来て、ランを買わないなんてね」
熊「おや、隠居さん、おみやげ用の饅頭ですよ」
隠「ほんとだね、おいしそうだね」
熊「私は、饅頭を買って帰ろう」
隠「熊は、花より団子だね」
八「おい、隠居、おいらの田舎のものが売ってるよ」
隠「ほんとだ。『北海の味めぐり』ってかいてある。八の古里じゃないか」
八「そうよ。おいらは、ここでおみやげを買ってくぜ」
そういって、熊は饅頭を山ほど、八は北海の味を山ほど買いました。あたしと、神さんはお金がないので、なんにも買わずに帰ったとさ。めでたし、めでたし。
神「それにしても、ラン展にいったのにね、饅頭と北海の味しか買わないなんてねえ。変わってるわねえ、長屋の連中は」